未来よ こんにちは(ミア・ハンセン=ラヴ、2016)

劇場で予告を見たとき、大泣きした。なぜかというと、スクリーンに出るだけで感動してしまうくらい、イザベル・ユペールが好きだから。品があるからどんな品のない役でも合う。美しいから惨めな役が合う。ひとりの女性の身体に多くの可能性を秘めているが、彼女自身はほっそりとしており、重苦しくなく飄々とした雰囲気を持っている。そういう感じがとても好き。
『未来よ こんにちは』は、そんなイザベル・ユペールの魅力をギュッとつめたような映画だった。

高校で哲学教師をしている中年にさしかかったナタリー(イザベル・ユペール)にミッドライフ・クライシスと呼ばれる一連の出来事─執筆した本の増刷停止から始まり、熟年離婚、母親の死去など─が訪れ、それらを越えて本当の自由を見つけていく物語なのだが、映画の作りが面白い。エピソードも場面も舞台も、早いスピードでどんどん展開していくのだ。そしてナタリー自身、よく歩き回る。学校へ、母が一人暮らしをするアパートへ、公園へ、映画館へ、家へ、本屋へ、バカンスへ。そして移動中、彼女は基本的に「何もしない」ことをしない。新聞を読んだり、本を読んだり。体も頭も、とにかくずっと動かし続ける。映画はナタリーの活動スピードと合わせるように、早い場面転換で対応する。ショットとショットの空間的・時間的な繋がりは薄くて、その関係性はナタリーの活動によって保たれている感じだった。ショット間のつながりが薄い時に覚える違和感がなかったのは、映画が追っていたものは物語ではなく、ナタリーの活動のほうだからだと思った。

物語要素が足りない、というわけではないとは思うのだが、やはりその要素はそこまで強くないと思う。多分、この物語は一言でまとめることができる。冒頭に書いたように。「中年女性がミッドライフクライシスと向かい合い、その中で自由を見つける物語」、これで伝わると思う。でも、映画は物語のためにあるのではない。ナタリーの活動と、そこから派生する彼女の感情を丁寧に描写して、映画の範囲外に存在するであろうナタリーの人生を表現する。
だから、この102分間は本当にナタリーの人生を切り取ったみたいだった。終わり方も、綺麗な終わりがあるわけではなく、オープンエンディングである。なぜならこの後もナタリーの人生は続いていくから。つらいことも落胆することもまたあるんだろうけどこの人は生きていくんだろうな、と、最後に流れる The Fleetwoods の Unchained Melody を聞きながら思うのだった。

歩く、食べる、読む、眠る、といった活動が多い映画ではあるが、泣く、笑う、戸惑う、怒る、悲しむという感情を表現する行為もまた多い。それがナタリーをより一層生き生きとさせる。と同時に、そんなユペールがすばらしい。
ただ、予告では泣いた割に本編では特に泣くということはしなかったけれど。でも良い映画だった。

あともう一つ興味深いなと思ったのが、哲学への言及だ。ハンセン=ラヴ自身、哲学教師だった両親を持っていた。映画の中で多くの哲学者の言葉が引用され、そしていろんなジャンルの哲学者の名前が挿入される。でも、映画は観客にそこまでの知識を求めているようではなかった。哲学者の言葉がその前後の文脈、言葉の意味も示されずに映画の中で使われても、それはあくまで登場人物たちが自然と使っているだけであり(だって哲学教師なのだから当然である)、それによって観客が映画への印象を変えるといった要素は全くない。
『はじまりへの旅』では違和感を持っていた高尚なヒップスター的ジョークとは違い、観客への前提知識を必要としていないように感じた。後者はあくまでサブテキストとして、言及している。だから映画自体、ハイブローな嫌な感じがしなくてすごく良かった。ただし、観客がハイブローと受け取る可能性は大いにあるが・・・。

あくまでサブテキストとしての哲学ではあったが、でもそれをメインテキストとして映画を読めるとまた違った味わいを覚えることができるんだろう、とは思う。

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